呆丈記

呆れたものがたり

転落人生を目の当たりにしてしまった・・・

        転落人生を目の当たりにしてしまった・・・

 仕事で若いヤンキー夫婦の家によく出入りしていました。ヤンキーと言いましても

態度が悪いとかクレームや因縁をつけるといった迷惑行為はなく、見た目だけヤンキーなだけの気さくな一家でした。エグザイル風の襟足の長い二十代半ばの旦那とギャル系でローラみたいな二十歳前後の奥さんと、やっと歩くようになった女の子の3人家族でした。旦那は建築会社を経営しているか、親の会社かどちらからしくリフォームのカタログや新聞への折り込み広告が大量に玄関に積まれていた。進学し建築を学び建築士の資格を取り自身の自宅も自ら設計して建てた立派な新居に住み、休日はたくさんの高級車が集まり、仲間と庭でバーベキューで楽しそうに盛り上がるのを羨ましく思いました。

 

 そんな中、私は地域異動になりヤンキー夫婦宅のルートから外れることとなりました。最後の訪問時に奥さんのローラが「つらくても努力を続ければ絶対いいことあるよ。本当だよ。キミの苦労も誰かが見守っていてくれるよ。」と言って励ましてくれた。

 

                そして4年の月日が流れた・・・

 ある日玄関の郵便受けに地域情報誌が差さっていた。ちょうど転職しようとしていたので、求人情報コーナーのページを探しながら椅子に座ろうと腰をおろしたとき、見覚えのある家の写真が見えた。見間違えかと最初のページから1ページずつめくっていったら、売り物件&賃貸物件のコーナーにあの若いヤンキー夫婦の家が売りに出されていた。新築してから4年しか経っていないのに一体何があったんだろうと思った。

 

 仕事休みの日、どうも気になってしまい自然と車はヤンキー夫婦の家があった街へと向かっていた。だんだん懐かしい景色が目に飛び込んでくる。「あーあの薬局廃業してる・・・」「あー更地になってる、あのぼろ屋がついに解体されたんだなぁ。」とか独りでツッコミながら運転していたら、知らない住宅街が突如広がった。

路肩に車を寄せて、まじまじと見るがこの住宅街に見覚えがない。よく見るとどの家も新築で新しい。

 

古いポータブルナビを拡大しようやく理解できました。そういやここは畑だったんだ。ずっと向こうまで畑、そして当時は砂利道の突き当たりに初代MR2と初代クラウンマジェスタの廃車が放置されていた。初めて来たときに目印にしていた学校と避難場所を案内する青看板と黄緑色のポールはそのままの場所に残っていたのです。ここを過ぎれば山の斜面の下にコのじ型の区画があり、そこを過ぎてすぐ左にヤンキー夫婦の家へと上がる勾配があります。左ウィンカーを出しハンドルを切りはじめると、緩やかな勾配の頂上付近にミニバンが停まっているのが見えました。

仕方なくコの字型の区画に車を停めて、その角の斜面のを登りました。窓には不動産会社の売り出し中の紙が貼ってある家が次第に見えてきました。さっきのミニバンも物件を見にきた家族なのでしょう。

ヤンキー夫婦の家だった物件にたどり着くと、さっき見たミニバンはちょうど勾配を下って行ったところだった。家の中はもちろん家具ひとつなく、子供の木製ブランコもなくなっていた。

 「その家もう買い手決まっているよ」と声がした。振り向くと見覚えのあった勾配入口の住民だった。買い手は決まっているが宣伝?のためか明日、住宅内覧会をするらしい。

「今日は何人も見に来ているよ。」「ここ若い夫婦が建てたんだけどね、旦那さん会社だめになちゃって払っていかれなくなったみたいよ。」「その通り沿いの市民会館の前の古い長屋に移ったけど、ちゃんこいの(小さい子)いるからねぇ」

 

旦那はよその建築関係の会社に就職したそうですが、雇う立場から使われる立場になるという感覚はどのような感じなのでしょうか。

新築のマイホームから借家の古い長屋に引っ越すとき、かなりつらかったのではなかろうか。

帰り道、市民会館の通りを挟んで向かい側には、長屋に不釣り合いな白いレクサスが停まっていた。