以前同じ職場だった人のいとこに当たる人が、建物の解体業を営んでいてその人の家に元同僚K山さんと一緒に遊びに行ったことがある。
いとこ(解体山)さんは車やバイクが好きな我々を通称『アジト』へ連れてってあげるよ。と
喜んで招待してくれた。
その『アジト』へ行く前に何人もに連絡して『今、アジトにいるか?』とか『アジトに今日いるのは誰か?』とか『何人アジトにいるか?』とか電話で確認していた。
確認の結果現在、アジトには雇用している従業員が4人いることが判明した。
電話が終わるとK山さんが解体山さんに『俺ら行ったら邪魔になるんでない?』と聞くと
解体山さんは『違うんだ人数は多いほうがいいんだ、アジトにいる奴らも喜んでた。』
と聞いてその時はあぁ賑やかなのが好きなのかなぁなんて考えていた。
アジトは車を停めるところに困らないし、それにスポーツカーやカスタムしたハイエースとかとにかく車とバイクが大好きな奴らの集まりで、そこで改造や整備、パーツの取り付けもやっているらしい。
従業員の中に数名、元自動車整備士がいて資格もあるので『アジト』そのものを自動車やバイクの整備業が出来るくらい設備が揃っている。
『アジトが見えてきたぞ』その言葉を聞いて私は拍子抜けした。
私の目に飛び込んできたのは古い廃業した店舗のようなものにしか見えなかった。『アジト』と呼ぶくらいだから山の中やせめて街外れのひっそりとしたところを想像していたので面食らった。人口数千人の『市』にも満たない寂れた街ではあるがその大通りに面している。
『この建物は元洋品店だったんだ』と解体山さんが説明していると、建物の裏から4人の従業員がやってきた。
『ヨーさんが煙草吸うって言うからみんなで外で休憩してたんだ』
元洋品店のため店の大通り側はガラス張りで、中が丸見えだ。中にはタイヤが外されたバイクと塗装したような車のバンパーとホイールが見える。換気扇の排気口からは塗料のシンナー臭い風が漂っている。
『便所貸してくれない?』とK山さんが言うと何故かその場にいる全員で案内してトイレの前でK山さんが終わるまで雑談しながら待っていた。
その後は載せ替え予定のホンダのVTECエンジンを見せてもらったりした。
1時間半くらいした時K山さんが『腹減った』と言ったので解体山さんは『定食屋でも行くか?』となったので私はトイレに行きたいと言うと、作業中の人たちも手を止めて全員トイレまで着いてきた。
定食屋へ向かっているときK山さんが『整備士いるし設備もあるならあそこでバイク屋やればいいじゃん、建物は借りてるの?』と問い掛けた。
5秒ほど沈黙した後に解体山さんは『あの建物は一応借りている』と言うと、煙草を咥えたK山さんを見てクレと言わんばかりに手を差し出した。
煙草を手に渡そうとしたとき『タダで借りてる』と聞いたK山さんは止まった。
『タダならくれてもいいだろう、ああでしか使えないボロなんだから』と嘆いた。
解体山さんは『最初はタダでくれるって言っていたんだ』と言うとアジトの成り立ちを語り出した。
解体山さんの会社にある日一本の電話が入った。『店舗跡を解体してほしい』とのとで、見積もりを取るために会社の担当が現地へ赴いた。
依頼主はこの店舗で長年『洋品店』を営んでいたナリタと名乗る高齢の女性だった。
解体は店舗とその二階の住居と増築した店舗奥の倉庫として使っていた部分だ。
店舗と二階の住居は昭和四十年代の後半にナリタさんが購入した。そして店舗奥の倉庫部分はその5年後くらいに増築された。元の店舗も二十年前にリフォームした。
しかし『洋品店』と聞いていたのに店の中はすでに現在のアジトとして使っている状態になっていたらしく、タイヤを組み替える機械なども元々ここにあったものらしい。
営業担当は『洋品店されてたんですよね?』とナリタさんに再度伺ったところ『洋品店は十年ほど前にご主人が亡くなられた際にすでに廃業していたこと、その後貸してほしいと格安で貸したところ現在のアジトのようになった』らしく我々の前にアジトとして使っていた者がいたようだった。この話を聞いた社長の解体山さんはナリタさんに『建物は修繕されてるし、不動産会社紹介するので賃貸として貸してみてはどうでしょう?』と提案した。
ナリタさんは『そしたらアンタらにやるわ、好きなように使っていい、そんかわりアンタらが責任持って解体するんじゃぞ』
こうしてアジトはできたのだが、ナリタさんから忠告がひとつあった。
『必ず建物の同じ空間には4人はいること』
意味はわからないが、以前の借り主はこれが守れなくて逃げるように出て行ったようだ。
『4人いないとどうなるんですか?』と聞くと『前に借りたのも信じなかった、どうなるか自分らで確かめれば意味わかるっつてよ』とそれ以上は言わなかったけど。
『幸いなことにうちには車やバイク好きがわんさかいるから、仕事終わりや休日も4人以上集まることができる』
『破ったことないの?その約束を』
解体山さんはゆっくりとK山さんの方を見ると『それがあるんだな』
『最初のうちはビビって気にしていたんだけど、人って言うのは危機感なくなっちまうのよ。買い出し行ってうっかり3人だけになった時が一度だけあった。そのうちのひとりが見ちゃったようで』
『アジトへはそれ以来来なくなったよ』
『トイレから出たら見えないくらい顔面から真っ黒い煙がモクモク出た女がいたくらいなんだけどね』