呆丈記

呆れたものがたり

闇夜のフォロワー

 とてもお世話になった人が入院されたと聞き、相方と2人で車で5時間ほどかけてお見舞いに行った。

 

しかしコロナ禍のため院内に入りたくはないし、病院側からの見舞いの自粛を促す立て板が正面玄関内にあったことも踏まえ、あろうことか【病人】に外に併設されている喫煙所に赴いてもらうことになった。

 

 

 

『おいおいこんな暑い日によくきたな、まぁうれしいよりも心配だよ、まずな』

 

 

恩人は暑がる我々の肝を冷やそうとしてか、今入院しているこの病院で起きている不思議な事を話し始めた。

 

 

『この病院には真っ黒な影のような二人組の幽霊がたまに現れるんだ。』

 

 

普段は子供やサラリーマンのような姿の見えている霊なら普通にいるが、その【影】のような二人組の霊は毎日はいないらしい。

 

 

 

『その二人組が現れると病院内で必ず死者が出るんだ。死神なのかもな』

 

恩人が言うには病院内で人が死ぬ前にだけ、この二人組は現れるようで、キン肉マンの悪魔超人みたいにでかくてゴツイそうだ。

 

恩人がいつものように見ていたら、後ろを側のほうの影が恩人が自分たちの事が見えている事に気づいたらしく、前の影に教えたようなしぐさをした。

 

前を歩いていた影は一瞬立ち止まり、後ろの影と恩人の方を二体で見つめた。

 

 

恩人はさも見えていない様子を振舞い、競馬新聞を熟読していた。

 

 

しばらくは二体の視線がつづいたが、前の影が『行くぞ』と後ろに促して行ってしまったが、後ろの影は余程確信があったらしく『首』だけを恩人のほうをずっと見たまま病院の奥へ消えた。

 

 

数時間後彼らが戻ってきた際も、やはり後ろの影だけが恩人の方を通り過ぎても首を曲げてずっと見ていたらしい。

 

 病院で働いている医師や看護師の三分の一余りは、彼らの存在に気づいているようだった。

 

 

 

恩人と別れ、道の駅でソフトクリームを相方と食べていた際に熱中症気味になり、事故を起こしてはいけないとの事から、相方が『宿』を手配してくれた。

 

宿にはコロナ禍のためなのか我々を含めて4組の宿泊客がいたが、どこかの大学の生態系の調査の研究チームは夜中が仕事どきらしく、外が暗くなったころ訳の解らない機材を満載したハイエースにゾロゾロと乗り込み行ってしまった。

 

そして北海道をバイクでツーリングしているという宮崎ナンバーのバイカーも熱中症対策と言って夜中に移動するらしい。

 

 

早めに就寝することにしたが、家にエアコンが無い私の設定ミスで【暖房】にしてしまい、室温35度で目覚めた後しばらくは眠れなかった。

相方はひどくご立腹でエアコンのリモコンを彼に取り上げられた。

 

 

 

相方は執拗に『部屋にカギをかけろ』とトイレから帰ってくる度に言った、私はどちらかと言うと宿泊の際は【鍵】は掛けないばかりか、客室の扉も開け放つタイプなのでえらい神経質だなと感じた。

 

 

 それから眠れないので上の階を見に行ったら、洗濯をしている小さなおじさんがいた。

そのおじさんの話では、今現在この建物にはそのおじさんと我々の2組しかいないらしく、今は23時過ぎているが洗濯しても迷惑にならないとのことで、私も洗濯することにした。(もう一組の宿泊客は熱中症による脱水症状で市内の病院に行ったそうだ)

 

 

 洗濯を終えたのは深夜の1時手前あたりだった。洗濯場でガラケーでネットしていた際に2~3度酔っぱらったさっきのおじさんがトイレに来ただけで、他の宿泊客とは会わなかった。

私は洗濯物を干すと寝ている相方のリモコンを奪い取り今度はエアコンの冷房に切り替えて、室温設定を目一杯下げて風量を全開にして布団に入った。

 

 

 

起床は朝7時、すでに相方が起きてガタガタ震えていた。

 

 

おそらく相方がエアコン冷えしたのだろう。外はカンカン照りの青空に合わせてか青白い顔色をしている。

 

 

 

『あれほど鍵しろって言ったのに』

 

 

相方の言うには昨晩私が洗濯から帰った際に、鍵を閉めなかったと思っているようだが、あれだけしつこく言っていたので忘れず閉めたはずである。

 

 

 

相方はエアコンの寒さと私のいびきのうるささで、一度夜中に目が覚めたそうだ。

時刻にして洗濯を終えて就寝してから1時間半ほど経過したあたりらしい。

寝返りを打って私の方を向いた際に部屋の扉が開いているのがわかったらしく『あれほど言ったのに』と思った瞬間。

 

 

 

 

部屋の外側に誰か立っているのがわかったらしい、そしてあわてて私を起こそうとしたら私の隣に誰かが寝ていた。

 

 

『ここかな?』

『ちがうよ』

 

 

 こどもの声のやり取りが聞こえた、それはこの影がしゃべっている他ない。

 

 

相方はこどもに諭すように『ここじゃないよ、自分のお部屋に戻ってね』と言うと、寝ていた方の影も部屋を出て外にいる影と並んだ。

 

 

それは身の丈2メートルあるようなプロレスラーのような筋肉質の影で、まさに昼間に恩人に聞いた話の影と同一のものであると認めざるおえないほどイメージと一致していたそうだ。

 

 

 

相方が執拗に『鍵を閉めろ』と執拗に言っていたのは、その話を聞いたため影がついてきそうな予感がしていたからで、あのままだったら私はどうなっていたのでしょう?

 

 

部屋を間違えたような会話内容から、洗濯していたおじさんかもしくは脱水症状の若者の部屋に来たのでしょうか?