今週のお題「寿司」
学生のころ『回転寿司』でアルバイトをしていました。
この当時はまだ、北海道の大きな街以外に回転寿司にチェーン店が無く、私の働いていた回転寿司屋も個人経営で支店なしの小さい小さい店でした。
経営者は当時二十代半ばのボンボンの息子で、親が経営のノウハウを身につけさせるために出資して開いた学習教材のようなものです。
当然ですがそんな息子は一回も就職したことが無い状態で経営者になりました。
一から全部やるのは無理なので、ある程度経営の安定している店を買収したところからのスタートとなりました。
新社長となったボン息子は社長室で『ダービースタリオン』ばかりやって店の様子を見に来る事はありませんでした。
そればかりか苦言を呈した年上の従業員をすべて解雇して、自分に従うイエスマンだけで揃えました。
こうして全従業員が25歳以下という新鮮な職場が誕生と引き換えに店の鮮度は地に堕ちてゆく事となるのです。
当時店長にはその店で一番古参でアルバイト歴2年の17歳の高校三年生が店長として就任しました。
板長は19歳の暴走族がなりました。
タッチパネルなんて当時はもちろん無く、ホールで卑猥な制服の女子高生が注文を取っておりました。
私はシャリ玉と言って、ご飯を入れると寿司の形にしてくれる機械から出てきた飯の上に、暴走族の切った魚を乗せてレーンに流す担当をしていました。
17歳店長は雰囲気づくりに法被を着て、それらしい形に飯を握り暴走族の切った魚を乗せる重要な役割でした。
衛生状態は最悪で便所に行っても手を洗わない、作り置きして何度も温めてすっぱくなった『カニ汁』、私の担当していたシャリ玉の中に出入りしている『ワラジ虫』、ソフトクリームの機械に群がる『アリ』さんと保健所もびっくりの内容。
客席には乾燥した米粒や壁にへばりついて水分の失われた寿司ネタが落ちていました。
揚げ物のフライヤーの中に堕ちた『蛾』がイカリングと一緒に墨汁のように真っ黒な油の中で泳いでいます。
若社長はアルバイトの女子高生に手を出して妊娠させたのを皮切りに、暴走族は検挙され、17歳の店長は売上金を持ち逃げ、私は幸運なことにシャリの中からワラジ虫が出てきて解雇となりました。
私がそれから回転寿司というものを食べたのは、実に25年も後のことです。