今週のお題「鬼」
今年は勉強の鬼について語ろうと思います。
私が小学校3学年の時、当時住んでいた坂のうえから父親の会社や通っていた小学校、食料品店までがべらぼうに遠く、嫌気がさして平地に移り住んだのです。その引っ越し先の町内の公園にはいつも『ヤマギシ』くんと言う小学2~3年生くらいの野球少年がいました。
いつもひとりで野球のバットで素振りや、壁とキャッチボールしていました。
町内会のこどもは3~4人しかいなく、低学年の子はヤマギシくんただひとり。
『あの子も誘ってあげよう』みんな満場一致でヤマギシくんを仲間に入れました。
当初、ヤマギシくんはてっきり一人っ子で、家でファミコンを持っていないか、する時間を決められていて、野外での時間つぶしに野球の練習をしていると勝手に想像していました。
あるいは何か家にいたくないような事情があるかのどちらかではないか・・・・・
気を遣い誰も彼の家で『遊ぼうよ』と切り出す者は誰もいなかったのです。
いつものように公園で遊び始めるとすぐに雨が降ってきてしまいました。
ヤマギシくんは『ここから僕の家が一番近いので案内します。』と言って家で遊ぶことを提案してくれた。
予想外の展開に一同は戸惑いながらも、先導してくれる彼の後を小走りで急いだ。
『さあさ、ここです。どうぞ入ってください。』
ヤマギシくんは玄関の扉を開けで招き入れた。
ぞろぞろと子供が入って来たことに気付いた、彼の母親と祖母らしき人がタオルを人数分持ってきてくれた。
『ジュース持っていくからそこの僕の部屋で待ってて』
水色の絨毯の広いお部屋、裕福の香りが漂う。
『おい!スーパーファミコンがあるぞ!』
ひとりが驚嘆の声を上げた。
ヤマギシくんもスーパーファミコンをやるのは久しぶりらしく、アダプターやらAVケーブルやら慣れない手つきだった。
(当時私がファミコンで使用していたテレビが昭和のダイヤル式ブラウン管テレビだったためRFスイッチでスーパーファミコンをテレビに出力していました。)
スーパーマリオワールドを30分くらい盛り上がった時、誰かが帰ってきたような様子がありました。
『えっ!お兄ちゃん?』
ヤマギシくんの顔色が変わり、玄関先でお母さんとお兄ちゃんが揉めているやり取りが聞こえてきています。
『とにかく勉強するからご飯はラップしてテーブルに置いといて!』
強い口調と共にバダーンという部屋の扉を閉める音でその後、スーパーファミンコンが継続できないと察しました。
お兄ちゃんはとにかく勉強が好きで好きで堪らないらしく、高校受験のはるか前の小学校の最初のテストからほぼ100点しか取ったことが無いそうです。
(最低点は95点)
勉強のしすぎを心配した母親やおばあちゃんが、部活をやることを勧めたがそれを拒否、ありとあらゆるゲーム機を買い与えたが一切見向きもしない。
挙句の果てにあげたおこずかいは全て勉強のための書籍に使ってしまう始末。
とにかくお金があれば本を買う。
母親が『じゃあアルバイトすればもっと多くの本が買えるよ』と提案し、それに賛同した兄だったが、アルバイトを途中で抜け出し勉強するという異常ぶりを発揮した。
ヤマギシくんいわく、『一緒に遊びたいのはスーパーファミコンとでは無くお兄ちゃんである。』とのことでひとりでゲームしても楽しくないと、みんなのいる公園に来ていたようでした。
弟である彼も決して勉強をおろそかにしているわけでもなく、きちんと宿題と予習をした上で公園に来ていたようです。
そして衝撃だったのがそれから10年後ぐらいに、夕方のローカルワイド番組のニュースを読み上げるアナウンサーとしてヤマギシくんのお兄ちゃんらしき人物が出ていたことです。はじめは同姓同名の別人かと思いましたが間違いないと思います。
たぶん今でも勉強しているでしょう。