東京で一つ、銀座で一つ、合せてこの二つが何だか知らないが、若いふたりが始めて逢ったのは東京でも銀座でもない、ほんとの恋の物語は北海道の糞田舎にある限りなく黒に近いグレーな職場で始まった。
漆黒のおどろおどろしい『うらみ』『ねたみ』『ひがみ』はもはやブラックホール。
四十、五十、還暦の独身底辺男性や子供たちが成人したベテランシングルマザーたちの巣窟で行われる【ラヴコメディー】はクライマックスを前に【ホラー】に変わる。
『ホラー言ったでしょ!』
いくつも観てきた職場でのリアルな恋愛ドラマの締めくくりは、いつもベテランシングルマザーたちのこの言葉で完結してきた。
みんなが欲しているのは他人の【地獄絵図】の一点に尽きるのだ。
若いふたりの恋の行方を操作したいのだ。そして崖から蹴り落としたい。
燃え上がる恋の炎に放水したい、二人を包むピンクのハートを、ユンボの圧砕機で
粉砕したい。
金属バットで滅多打ちにしたい。
そして最後にガソリンをぶっかけて燃えさかる地獄の黒い炎を、林間学校のキャンプファイヤーのように円で囲み『ホラー言ったでしょ』と言いながら、満面の笑みで破局の喜びの舞いを踊るのだ。
助かる術は船から大海原へふたりで飛び降りること。
これ即ち、二人同時に無職になるということ・・・・・・
過去に集中砲火を浴びて退職へと追いやられた二人は結婚し、牧場の住み込みアルバイトで頑張るも収入面で不仲になり、子どもを儲けた翌年には破局した。
若い二人が命を賭けた真実の恋の物語も誓ったあの夜も、みんなユンボの圧砕機でバーンだよ。
【呉越同舟】仲の悪い者同士が一所にいる、または共通の目標で協力すること。
ホラー耳をすませてごらん・・・・・
聴こえてくるよ。誰かのしあわせぶち壊し狂喜乱舞の雄たけびが・・・・・・