呆丈記

呆れたものがたり

勇者の戯言

 自己中心的な考え方、高いプライド、世界は自分を中心として回っている。

そして自分は尊く特別な存在の主人公であり、他人はそれらを補助する脇役である。

 

 

 上記のような事を中二病と呼ばれる成長過程に見られる一過性なものではなく、本気で信じてやまない人間と出くわした。

 

 

レアなポケモンと遭遇したかのように、私の瞳は輝いた。

 

 

 

 中途採用で入社した21歳の『山』は中学校卒業後にすぐに職に就き、あらゆる業界で余され者にされ私の職場にたどり着いた。

 

一見だらしがなく身なりも汚らしいが、身長が高く180㎝以上ありスタイルは良い。

これでイケメンならモデルにもなれただろうが、当の本人はこの高身長をあまりいけ好かないようだった。

 

 

『山』は漢字が全く読めない。正直言って数年日本に住んでいる外国人の方がよっぽど【漢字】を理解しているほどだ。

 

 

平仮名で『ふりがな』を付けてあげても、『これ?どうゆう意味っすか?』となり、周囲を驚かせた。

 

 

自分の事を『オレ様』と呼んでいることから、他の人たちからも何時しか『山』の事を同じく『オレ様』と呼ぶようになっていった。

 

『あの【オレ様】は今日も遅刻か!』、『何度同じことを教えても【オレ様】の奴は覚えないな』知らず知らずのうちに次第に浸透していた。

 

 

 

しかしある日、取引先の会社から『確認者の欄に【オレ様】と書いてあるが一体誰のことかわからない?』という趣旨の連絡が入った。と同時に顧客から『オレ様がせっかく持ってきてやったんだから買うのが常識』と言われたと苦情が入った。

 

 

この2つの件で『山』が自分の事を本気で特別な存在であり、なおかつ自分は次元を超えた存在の天才と思い込んでいることが判明した。

『理解されないのは周囲の人間が俺についてこれないだけ』と言い放ち、周囲を唖然とさせた。

 

 

 

見習い期間が終わり、ひとりで営業業務に行くようになると苦情の件数は1日30件を超えるようになっていった。

 

 

まさに前代未聞の特別な存在であったことは間違いない。

 

 

 

上司から厳重注意されている最中もコーラをグビグビ飲み、『だってしゃーないじゃないっすか?』と悪びれた様子は一切無かった。

 

 

それどころか『みんながオレ様の仕事をやりやすい環境にしてくれない。』

『このような問題が起きるのは周囲の問題であり、協力やサポートが足りないがために起きていることを理解してほしい、そのせいで毎回叱責される自分の立場を理解したことがありますか?』だんだん支離滅裂な発言が増していった。

 

 

そんな『山』の唯一の理解者は医学部?に通う19歳の妻の姫。

まだ学生である姫は18歳の時に『山』と出会い結婚したそうだ。

実家が病院を営んでおり、その仕送りで山と生活している。

 

 

逆玉の輿に可愛い奥さん、も関係あるのか?山への風当たりは次第に厳しくなっていくように感じられた。

 

 

 

そんな中ついに決定打となる事件が発生した。

山が火の点いた煙草を顧客の家の敷地内に捨ててボヤが起きかけた。

 

 

本社に呼び出された山は『反省文』のような物の提出を求められたが、当然読み書きの出来ない山は、これに激しく抗議。

 

 

その間に同様の火災になりかねない火の点いた煙草のポイ捨て行為による苦情があり、

山は懲戒解雇となってしまった。

 

 

最終出勤日当日に山はいつものように寝坊して、1時間半遅刻して出勤した。

 

 

 

 

私は山の今後の人生が心配である。自分自身も彼に似たような箇所が所々あり、年齢的にもリストラの対象になるだろうと今から覚悟している。