呆丈記

呆れたものがたり

楽園が地獄に変わるとき

 恵まれた環境にいる者はそれがどれだけ幸せなことであるか実感する事はほとんどない。

何事も失ってはじめて気づく楽園・・・・

 

しかし見えている理想郷にたどり着く事は実に難しいし、たとえ辿り着いたとしてもそれはどこか歪んでいて、そこから理想とどんどんかけ離れてゆくまがい物のユートピア

 

 

アンダーグラウンドと表裏一体のパラダイスこそが今のこの日本である。

 

 

 

どこまでも続く青い空、エメラルドグリーン色の綺麗な海にひとたび潜ればそこは美しいサンゴ礁の世界が広がる。

 

白い砂浜に照り返す太陽の反照と熱気を肌で感じながら、ビーチベッドに横たわりトロピカルジュースを手に取る。

 

サングラス越しに眺めるブルースカイがオレンジ色に変わるころ、更なる『興』へと突入する。

 

プールサイドで淡い光を浴びながら次々と運ばれてくるディナーに舌鼓を打つもよし、色とりどりの眩しいネオンに照らされて屋台を回り食べ歩くのもよし。

 

 

その後はナイトクラブで気の済むまで踊り狂うもよし、おしゃれなバーでカクテルを飲みながらおしゃべりを楽しむもよし。

 

全部よし

 

遊び疲れて最後は天蓋付きの四畳半くらいあるベッドで眠りにつくのです。

 

 

 

 

呆丈郷

 

どこまでも続く荒れ野原、群青色のよどんだ海には『危険!遊泳禁止!』の立て札がいくつも立ち並び、異様な世界が広がる。

 

漂流物が散乱する砂浜に腐敗臭と嫌悪感を肌で感じながら、ところどころ朽ち果てたコンクリートの柵に腰をかけてペットボトルの家で詰め替えた麦茶を手に取る。

 

冷めた目で眺める灰色の空が暗黒に変わるころ、更なる『鬱』へと突入する。

 

小汚い事務机で薄暗い蛍光灯の光を浴びながら次々と伝票整理に没頭するもよし、クレームの電話で罵声を浴びせられて謝罪のために真っ暗な峠道を爆走するもよし。

 

 

その後は会社へ戻る途中にスーパーの半額弁当を漁るもよし、隣町まで来ていた際は牛丼店に立ち寄るもよし。

 

全部夜死

 

仕事疲れて最後は散らかった部屋でせんべい布団まで辿り着くことなく力尽きるのです。

 

 

 

あなたのじごくはだれかのてんごく

あなたのてんごくはだれかのじごく