『何かいい仕事ないかなぁ』希望の職種はおろか派遣の仕事でさえも奪い合いの競争だったあの頃。食い繋ぐために皆、必死だった。
『うちの会社においでよ!』そんななか手を差し伸べてくれたひとりの友人『やっぱり持つべきものは友だよね』なんてのんきなあの頃の自分は、疑いもせず導かれるまま地獄の門をくぐった。
彼には学歴コンプレックスがあった。職場の人たちが学生時代のサークルやツーリング、心霊スポットめぐりなどの話題になるとしばしば話に付いていけないことがあった。
学生食堂の味ボリュームの割りの安さ、『うちの学校はこんなメニューがあったよ』とか『大学生協でこんな馬鹿な事件が起きたよ』とか何かと学生時代の話題が多かった。
新入りの私にも当然はなしが振られるので、それに応えると皆の反応がよくウケもまたよく盛り上がった。
しかし今思えばそんな状態が友人には煩わしくもあり、また苦痛でもあったのではなかったのだろうか?
自分が連れてきたにも関わらず、自分よりもてはやされて上司にも期待をかけられる。
私に対する恨みがどんどん増していった。それもそのはず、友人は平社員にも関わらず年上や上司などの目上の人にも容赦せず間違いをどんどん指摘し、大卒新入社員にはい鬼のように厳しい。自然と彼は敬遠されるようになっていった。
彼にこのような一面があったことに驚いた。なにしろ一緒に遊んでいる時の彼は、無口でおとなしい真面目な一面しか見たことがなかったのだから・・・・
車やバイクのハンドルを握ると性格が変わる人の事をよく聞くが、まさに社会に出ると性格が変わる人と言った方がわかりやすいのではなかろうか。
地味な性格を社会人デビューし新たな一歩を歩んだのか?謎は深まるばかりであった。
ある日個人情報が間違って、他の取引先の水産加工業者に届くという手違いが起こった。同じ水産加工業者同士だったため顧客が奪われると流出した会社がカンカンになって直々に怒鳴り込んできたらしい。
『こんぶ』『わかめ』『たらこ』の顧客リストを扱ったのはどうやら私らしく、所長に呼ばれた。
どうやって顧客のデータを引き出して送ったのか?を聞かれても『わからない』と答えるしかなかった。実際やってもいないし答えようがない。
所長もエクセルも知らない奴が、パスワードを解錠してデータを引き出して印刷して封書で送りつけるといった一連の行為を新入社員がやらんだろう・・・となった。
その後も私の営業車の鍵が無くなる、業務用携帯が無くなるといったミスや身に覚えのないミスで会社の信用がなくなり、呆れられていった。
友人の父親が亡くなり、葬儀の準備のため一週間ほど彼が田舎に帰ったことがあった。その間おかしなミスはピタリと一切無くなった。
この事でうすうす感づいた社員が出始めた。疑惑は彼に向けられだした。
このとき退職する覚悟と友人をやめる決心をした。
彼は現在昇進して役職が付き多くの部下を従えている。
あれから数十年彼とは一切連絡は取ってはいない。
あなたはお友達、知人の裏の顔を観たことがありますか?あなたに接する時の顔はどちらの面でしょうか?
職場ではじめて友達になった人の方がより深い友人関係に発展するのは、このようなこととも関係あるのでしょうね。
みなさまのこれからの友達づきあいの参考となっていただければ幸いです。
このような取り返しのつかなくなった出来事も、友達をやめたことも何か意味があってこうなったことと受け止めています。