今週のお題「怖い話」
ボロボロこうえん
子供のころ、一時期急な坂の地域に住んでいました。
とにかく遊ぶところが無いのです。みんなでお寺の敷地で野球をやって硝子を割ったり、月極め駐車場でサッカーをしてマークⅡをボコボコにしたりで色々なところを締め出され、行き場を無くしていました。
坂の上の方に5階建ての大きな社宅が2棟あり、奥の方の建物は入り口に板を打ち付けて廃墟となっており、手前側の使われている建物も数世帯が入居しているだけでした。
決して広くは無い駐車場は貴重な遊び場でしたが、打ちつけられた板の隙間から人魂が見えるという噂が広まりなんだか薄気味悪い雰囲気が漂っていました。
当時住んでいたアパートの大家のおばさんからもらった、お下がりの『巨人の星』のボロっちい自転車もそこで乗る練習をしましたが、結局は坂の下まで降りる下り専用車となってしまいました。それでも乗ってみたいと言う子が後を絶たず、クラスも名前も知らないにも拘わらず気前よく貸してあげておりました。
ある日、いつも遊んでいた連中が『サッカーボール』を持ってやってきて、『いいところを見つけた』と言うのです。
それは例の社宅のさらに上にあり、草に埋もれた空き家の間の細い砂利道の終わりに『これ以上行き止まり』と言わんばかりの高さ1メートルほどの大きな豆腐のような長方形のコンクリート塊が鎮座しておりました。
道はそこで終わりではない・・・・・・先があったのだ。
大きな豆腐の塊を軽々しく乗り越えると、一同は理想郷へと続く道を足早に歩み出した。
かつてこの道が現役であったことを示す名残か、両端には円柱状の花壇に使われているようなコンクリートが草の間から見え隠れする。
そうこうしているうちに公園の名称が掲げられていたであろう錆びた看板の外枠が我々を出迎えた。
『わぁ広い!広いぞ!』
みんな一気に公園内へなだれ込みました。
斜めになって倒れかかっているポール状のガードレールに囲まれた楽園。
椅子の撤去されたブランコ、地面に下ろされた箱状のゴンドラブランコ、枯草に埋もれたジャングルジム、固定されて回らない球体の遊具。
遊具は全て使われなくなってかなりの年月が経っているようで、どれもがペンキが剝げて朽ち果てていました。
でも我々にはどれもが魅力的に見えたのでした。
商店でビックリマンアイスやジュースを買ってきて公園で食べたり、うるさい火薬の拳銃のおもちゃを連射したりと、普段怒られるようなことをできる理想郷を手に入れたのです。
しかしその理想郷もそう長くは続きませんでした。
『ここで遊んではならん!』
振り向くとそこには草刈りのためにやってきた町内会のおじいさんがいました。
この公園跡は管理されていたのです。
当然子供たちの言い分は『この急坂の町内において本来遊ぶべきはずの公園の存在を隠し、そして使用させないか?』の理由でした。
それの返答は『もうここへは来るな!』
人数も多いこともあってか、こども達は退きませんでした。
おじいさんはしぶしぶ草刈り機を地面に下ろし、色あせた緑色のベンチに腰かけて語りだした。
町内会のおじいさんの言うには、この公園では人が死んでいるらしい。
自殺が二人で事故死も二人の計四人。
自殺は中年夫婦がふたりでブランコで首を吊って死んでいるのが発見されたようだ。
事故死は箱ブランコのゴンドラの下に挟まれて一人の子供が死亡、球状の回転遊具でも子供が一人死んでいるとのことでした。
中年夫婦の自殺の原因は子供が出来ず、悩んでいたようだったが年齢的にも絶望的になっての心中ではないかと思われる。
おじいさんの推測では3人子供が欲しかったそうで、あと一人の子供が犠牲になる可能性があるとのこと、それが故に公園閉鎖という決断に町内会が踏み切ったことを教えてくれた。
我々はその話を聞き、おじいさんの要望を受け入れた。
今もこうして草を刈りに来ている時、椅子が撤去されたブランコの支柱の上に自殺した夫婦が立ってこっちを見ていることがたびたびあるようです。
緑色に腫れ上がった顔に、ピンク色の黒目の無い目玉で『ぴゅーぴゅー』と笛のような音を出すそうです。
そして二人が住んでいたのが今は廃墟と化した板張りされた社宅だったそうで、集合ポストの横の電灯スイッチの左に『赤いマジック』で二つの火の玉を描いてから公園で命を絶ったそうです。
『赤いマジック』で描いたのに人魂の色が緑色なのは顔の色だそうで板張りの間から見えるのは、遺体の発見が遅れて胴体からちぎれた生首が宙に二つ浮いているからだそうです。
そしてさきほど述べた『ぴゅーぴゅー』という音は、公園で遊んでいた私も含めた複数の子供たちが何の音かわからず聞いていた音でした。