呆丈記

呆れたものがたり

【やばい話おじさん】のやばい話

 子供のころお友達と外で遊んでいると、どこからともなく変なおじさんがやってきて『おはなし』を聞かせてくれた。

 

『おはなし』は聞くに堪えないないようなものばかりで、おおよそ子供には刺激が強すぎた。

 

いや、大人になった今だって引いてしまうようなドギツイ内容がほとんどだった。

 

時には怖い話、またある時には耳を塞ぎたくなるような嫌なはなし。

 

ほら、来たようですよ。

 

 

 

 土曜の半ドンに狂喜乱舞し、長時間のファミコン三昧のあげく外に追い出されたぼくたちは、とりあえず持ってきたサッカーボールを荒れた駐車場で転がしながらゲームボーイを持っている同級生を誘い出そうと企てていた。

 

 

『やばい話聴きたいかい?』

 

 振り向くとそこには、紺色の作業着を着た小太りのおじさんがニヤニヤと気味の悪い薄ら笑いを浮かべ立っていた。

 

脇にはファイルのようなものを抱え、恐らくはリフォームか何かの営業マンなのだろうか?それとも工事事業者かも知れない。

 

呆気に取られて呆然としていると男はつづけてこう言った。

 

 

『やばい話聴きたいだろ?』

 

 

異変に気づいた他の友達数人がおじさんの元へ集まってきた。

 

興味を持った子供のひとりがこう訊ねた。

 

 

『どんな風にやばいの?聴きたい!』

 

 

おとこは待ってましたという顔をして近く駐車場の低いコンクリート土留めに腰をおろした。

 

傍らに持っていたファイルを置くと、肩幅ほど開いたひざの間に手を組み身を乗り出してゆっくりとした口調で

 

 

『よぅーし、やばい話をしよう』

 

 

子供たちの視線は男にあつまっている。沈黙と灰色の空、風に吹かれてざわめく草木たち、剥がれかかった物置のトタン板がバタンバタンと騒ぐ、すべては演出のように味が出ていた。

 

 

 

『この坂のしたを走っているバス道路沿いに一軒の廃屋があるんだよね。』

 

『ちょうど君たちが生まれるか、生まれないかの頃の事だよ。』

 

『そこには当時、年老いたおばあさんが独りで住んでいたんだ。』

 

『ある日、おじさんの働いている会社にそのおばあさんから電話が来て、見積もりをしてほしいと依頼があって家に行った事があるんだ。』

 

 

『電話で言われた住所に、会社から持ってきた地図とにらめっこしながら向かったのはいいけど、何回か通り過ぎてしまっていたようでなかなか辿り着けなかった。』

 

『まぁ、それもそのはず、そのおばあさんの家が人が住んでいるとは思えないようなあばら屋だったもんだから見過ごしていたんだね。』

 

 

『玄関の扉が両開きの引き戸で、真ん中から左右に開くタイプでそれを開けると薄暗く埃っぽい納戸のような広い空間が広がっている。』

 

『埃っぽいコンクリートの床には無造作に段ボール箱が積み上げられているようだった。』

 

 

『その部屋の奥に小さな3段ほどの階段とその先に木製の引き戸があった。』

 

『その引き戸から灯りがもれていたんで、とりあえずその戸を叩いてみたんだよ。』

 

『西日の光だろうね、中を覗いてみたけど眩しくて硝子越しには何も見えなかったよ。

 

 

『こんちわ~お見積りのご依頼できました。こんちわ~』

 

『呼んでも無反応なので、引き戸に手をかけて一気に開けたんだよ。』

 

『そしたらブヮーーーーーーっと埃が舞って、西日に照らされてキラキラしてんのよ。』

 

『目が慣れてきて床を見ると埃まみれのモンペが見えたからよ。』

 

 

『手に持っていたファイルで日差しを遮って確認したら』

 

 

 

 

『ミイラになったばあさんがそこに横たわっていたんよ。』

 

『俺は度肝を抜かれ、建物の外に飛び出した。』

 

『その後は警察にここに来た経緯を説明するも不審がられたね。』

 

 

『あのばあさんは以前は駄菓子屋を営んでいたらしく、だから家の造りがおかしかったのに納得したよ。』

 

 

おじさんは話し終えると、引き攣った顔の子供を見て満足そうに駐車場の入口に歩いて行った。

 

 

そして突如、くるりと振り向き再び語りだした。

 

 

『そういやおじさんがガキの頃、あの店に一度友達と行ったことがあるんだ。』

『そこでお菓子を大量に盗んできたんだよ。』

 

 

『それの仕返しかもな・・・』

 

 

おじさんと一緒にお菓子を盗んだおともだちは、三十年後に駄菓子屋の前の電信柱に車で突っ込み肩の骨を折る重傷を負ったらしい・・・