呆丈記

呆れたものがたり

伸びた麺

 それはいつもの立ち喰いそば屋でのことでした。

その日もいつものように店の『幟』を見て安堵した。店の硝子は曇り中の様子はわかりません。どのくらい先客がいるのか戸を開けるまではわからないのです。

 

『いらっしゃいませ~きょうはなんにします?』

カレーうどんおねがいします。』

注文をしている最中に70代とおもわしきおっちゃんが入ってきました。

 

 おっちゃんは私が『カレーうどん』を注文したのを聞いていたらしく、『わしも同じ』と言った。

 

 

すでに昼時を過ぎた店内には、いま来たおっちゃんと自分とすでに食べている『正チャン帽』のおやじの3人でした。

 

カレーうどんは3~4分程度で出来上がり、おっちゃんと同時におかみさんが持ってきた。

おっちゃんはうれしそうに訳のわからない独り言をつぶやくと気合を入れて箸を割った。

 

 

 半分くらい食べたころ、おっちゃんが突如噎せ出した。

私はティッシュを箱ごとおっちゃんに渡すと、おっちゃんは『うんうん』とうなづきながら受け取った。

しかし一向に咳き込みは収まらず、おっちゃんの顔はみるみる間に『だるまストーブ』のように真っ赤っかになっていきました。

 

店のおかみさんが『救急車呼ぼう』と言うと、おっちゃんは『うんうん』と真っ赤な顔でうなづきながら横になった。

 

 

 

数分後おっちゃんは救急車で搬送されていきましたが、喘息か何かの発作らしい・・・

 

静まり帰った店内で『正チャン帽』のおやじがこちらを見てニヤニヤしている。

おそらくおっちゃんが噎せたときに、なにかが私の器に入ったため箸をつけるか否かを楽しみに待っているのだろうなと察しました。

 

盆を持って返却口に置いてから給水機で水を汲み一気に飲み干した。

帰り際に返却口の前を通ると、カレーまみれの『入れ歯』がお盆の脇に置かれていました。

 

遠くで救急車のサイレンが鳴り響いていた。