呆丈記

呆れたものがたり

他意識過剰

 緊急事態になり大便目的で便所に駆け込んだんですよ。

空いている個室に入ろうとした時、隣の個室に誰かすでに入っているのに気がつきましてね。

 

なぜか入りかけた個室を出てしまったんです。まあそのまま出るのも気まずいんで、小便器で用を足し出しました。

 

便所内はしーーんとして個室の中の人はさぞかし集中していると思い、こちらもなるべく音を立てぬように心がけたんです。

 

 数秒後『ジャーーーーー』っと水の流す音と共に、ベルトをカチャカチャと締める音がして、『退室したら使ってない隣の個室にすぐ入ろう』と作戦を立てておりました。

 

 

しかしカチャカチャからややしばらく経っているにもかかわらず、一向に出てはこない・・・・

 

いや待てよ!自分が今ここにいるからではなかろうか?中から聞き耳を立てて外の様子を伺っているに違いない・・・・

 

よし、こちらから攻めるか!おそらくは、お互い顔を合わすことなくやり過ごすつもりだと思いました。

 

私は忍び足で隣の個室に入り錠をかけました。

 

さぁでていいぞ~すべては解決したと思われたのは、自身の頭の中だけであった。

やはり十人十色とはよく言ったもんだ・・・・・・とらえ方は人それぞれ・・・・

 

となりの個室の野郎は、用を足し終えたにも関わらずこちらの行動を警戒してしまったのか、今だに微動だにもせず沈黙している。

 

 

 すでに便所内に入ってから7~8分は経とうとしている。

隣の奴はいったいいつから入っているのでしょう?そしていつまでそこにいるつもりなんでしょう・・・・・

 

 

そんな馬鹿な意地の張り合いも突如として幕が下ろされることとなったのです。

『ぱっ!』センサー式のライトが便所内の節電のため照明を切った。

真っ暗になり、ほどなくして店内に『蛍の光』が流れだしました。

 

負けた・・・・敗北と共に便所内に明かりが点り、仕方がなく便所をあとにしました。

 

去り際に確認しましたが個室は『使用中』を示す赤い表示になったまま・・・・・

 

 

腹を押さえながら、小走りで店の外へ・・・・・

 

 

紙はわたしを見捨てたのだ・・・・・・